有酸素運動のトレーニングに関連する用語として『AT』と呼ばれるものがあります。 ここではATについて説明します。
人間の体が運動エネルギーを作り出す仕組みには二通りがあります。
1つは、脂肪と糖質からエネルギーを作り出す仕組みです。 エネルギーの生産に酸素を必要とすることから、『有酸素運動』と呼ばれます。 有酸素運動は、運動強度の低い運動で使われる仕組みです。
もう1つは、筋肉や血液中に蓄えられたグリコーゲンや糖質からエネルギーを作り出す仕組みです。 エネルギー生産に酸素を必要としないことから『無酸素運動』と呼ばれます。 無酸素運動は、運動強度の高い運動で使われる仕組みです。
無酸素運動は、エネルギー生産に酸素を必要としません。 その反面、運動を続けていると徐々に乳酸が蓄積されます。 その結果、筋肉に痛みを感じ、やがては筋肉が運動を続けることができなくなります。
有酸素運動は、必要な酸素が供給されている限り長時間運動を続けることができます。 ただし、必要な酸素を得られなくなると、エネルギー生産は無酸素運動に切り替わります。
AT(Anaerobic Threshold : 無酸素性作業閾値)とは、有酸素運動と無酸素運動の境界のことで、AT心拍数とはATに達する心拍数のことをいいます。
ATとは有酸素運動から無酸素運動に切り替わる領域のことで、この領域に突入してしまうと無酸素的なエネルギー生産が始まり、乳酸が生成されるようになります。 生成される乳酸の量が乳酸除去能力を超えると、徐々に乳酸が蓄積され筋肉の収縮ができなくなってしまいます。
ちなみに、AT心拍数はトレーニングを行っていれば徐々に上がってくるもので、運動能力の指標にもなります。 ATは、普段運動をあまり行っていない人の場合は、運動強度の60%程度で、世界のトッププロロードレーサやオリンピックメダリストともなれば90%を越える選手もいるといいます。
筆者の場合は、まじめにトレーニングをしていた時期(過去最も速く走れていた時期)で、73%でした。
AT心拍数を測定する理由は、自分の有酸素運動の限界を知るためです。 心拍数をAT心拍数の何%に保てば、どのぐらいの時間運動を続けられるかがわかるため、ゴールした時に力を使い果たすように運動強度を調整しながら走ることができます。
以下に筆者の例を掲載しますが、人により運動を続けられる時間はそれぞれ異なるので参考程度と考えてください。 自分がどの程度の時間運動を続けることができるかは実際に測定するのがいいでしょう。 実走だと、信号待ちや風の影響で心拍数を保ち続けることが非常に困難であるためジムのエアロバイクで測定するのがいいでしょう。
AT心拍数の測定は、まず15分かけてウォーミングアップを行って心拍数を 180 - 年齢 まで上昇させ、続けて1分間に一定量の運動強度を上げながら限界まで追い込みます。 運動強度を上げるというのは、自転車の走行やランニングなら速度で、エアロバイクなら負荷で、上昇させます。 なお、ウォーミングアップ終了直後から限界に達するまで、1分おきに心拍数を記録しておきます。 心拍計に記録機能がない場合には誰かに手伝って書き留めてもらうのがいいでしょう。
測定が終了したら記録した心拍数をグラフ化し、心拍数のラインを見て、ラインが大きく変化しているところを探します。 上昇角度が大きくなったり、逆に緩やかになったりしているところや、不自然に乱れているところがあるはずなのでそのポイントを探します。 大きく変化したところがあれば、その時点の心拍数がAT心拍数となります。
なお、グラフの変化は、ハッキリとは現れないことが多いため一度の測定でAT心拍数を探し出すのは不可能に近いそうです。 AT心拍数を探し出すためには、日を空けて何度か測定を行うのがいいでしょう。
探し出したAT心拍数が正確かどうかの判断は難しいですが、目安としては、普段運動を行っていない人で運動強度60%前後、世界のトッププロロードレーサやオリンピックメダリストで運動強度90%前後という統計があるのでそれを参考に判断してください。
例えば、安静時心拍数が60で、最大心拍数が180だとすると、強運動度60%は、
となります。
平地の無風のコンディションで、低強度で25km/hでしか走ることが出来ないのに、ATが運動強度の90%という結果が導き出されたのであれば、間違いなくそれは測定ミスです。
参考までに書いておきますが、筆者がATが運動強度の73%だった頃は、マフェトン理論(心拍数を180 - 年齢に収めて)で30km/hで走行することが出来ていました(平地で無風のコンディション)。